バッグブランドLEKTとdripによる理想のバックパック製作プロジェクト。
前回の記事ではバックパック好きの座談会で集まったアイデアを抽出し、それを具体的な製品に落とし込んで作った施策サンプルをご紹介しました。
LEKTさんの高い技術力もありバッグの機能自体はほぼ申し分ない出来に仕上がったので、あとはバッグの見た目を整えていくだけ。
…ただこの“見た目”というのが、ぼくらが想像する以上に難しくサンプル作りは泥沼化していきました。
この記事ではそんなサンプル作りの裏側と、バックパックのデザインの変遷をご紹介します。
サイズ感と補強材の調整
ファーストサンプルを背負ってみて真っ先に感じたのが「デカくて強い」というイメージ。
男性が背負ってもかなり大きなサイズ感があり、かつバッグ全体に使った補強材(バッグを保形したり、中の物を衝撃から守るための材)が厚く、存在感のあるデザインでした。
そこでまずは全体のサイズ感を小さく指示。さらにバックの外側に取り付けていたPC用の収納スペースをバッグの中に移動させました。
補強材の厚みも半分に調整し、より日常使いしやすいバッグへと変更しました。
フロントのステッチをどうする?
全体のサイズ感や雰囲気を整えられたら、次はバックパックのフロントに入ったステッチをどうするか問題。
というのもこのフロントステッチはバックパックのメイン室を上下に分ける「2階建て構造」を実現する上で、どうしてもフロントに出てしまうステッチなのです。
うーん、でもどうにかしてこのステッチを目立たなくできないかな…
確かに変ではないけど、余計な装飾は極力避けたいなぁ…
シンプル&ミニマルな見た目を追求したい平岡・堀口はなんとかこのステッチをうまく処理できないかと考えます。
悩んだ末に出てきたアイデアを全部試してみようとなり、ここで一気に3つのサンプルを製作しました。
1つがフロントステッチは残しつつも極力目立ちにくいステッチで仕上げるたもの。
2つ目はステッチをあえて活かすという方法で、革パッチを貼り付けてデザインとして残したもの。
3つ目はフロントにもう1枚ナイロン生地を覆い被せ、ステッチを消してシンプルな面を見せるもの。
こうして見るとフロントにラインがあってもデザインとしてはサマになっているね
色々な可能性を探った結果、やはりフロントのステッチングはなくすことで合意。サンプル③の方向性で固まりました。
さらに同じタイミングでバックパックの背面、ショルダーストラップの裏面にあったメッシュを排除。よりシンプルでデイリーに使いやすい見た目に仕上げていきます。
素材をより高品質にアップデート
ここまでは装飾的な部分に注目して改善してきましたが、イマイチ垢抜けない印象が拭えなかった2人。
シンプルでいいんだけど、なんかちょっと軽い感じがするよね…
自社製品ではあるけど、今の状態だと正直安っぽさを感じるよね
思い悩んで2人が手をつけたのが素材感。これまでは光沢のあるナイロン素材をベースに、牛革をアクセントとして使っていました。
まずはこのナイロン素材を光沢感のあるものではなく、肉厚な国産のバリスティックナイロンに変更。国産素材にすることで原価率はかなり上がってしまいましたが、見た目や雰囲気は一気に良くなりました。
次は持ち手やバックの底面に貼った牛革素材。これまでも国産の質の高い牛革を使っていましたが、思い切ってdripお馴染みの熟成レザーを使うことに。
PRESSoをはじめとするdrip製品に多く使われている熟成レザーは、通常の牛革に比べ肉厚で圧倒的な品質と存在感ですが、そのぶん原価もかなり高くなります。そんな熟成レザーを思い切ってバックに採用しました。
バッグ底面に貼った革で見比べてみます。下がこれまでの皮革素材で上が熟成レザー。写真で見てもその違いが分かると思います。
そして使いやすさにももうひと工夫。メイン収納の裏地はブラックですが、上部と背面の小物ポケットに関しては中のモノが見やすいように白地に張り替えました。
最後のフロントの仕上げに迷う。。
ここまで順調に1つずつ改善してきたバックパックのデザインですが、最後のフロントデザインのところで行き詰まってしまう2人。
というのもミニマルをテーマにフロントのステッチをなくし全面フラットな見た目にしたのですが、「これはこれでなんだか少し物足りないな…」と気になってしまいました。
悪くはないけど、なんかワンポイントあっても良いよね
ということでここからバックパックにワンポイントデザインを加えるべく、いろんなバックパックを参考にしながら仕様を決めていきます。
drip製品の本質は“機能美”だと思うから、デザインのためだけのワンポイントっていうのは避けたいな…
鉄板はロゴマークだけど、さすがにロゴをこんなにわかりやすい場所に載せるのは違うな…
機能とは違ってデザインという正解のない問題を考えるのは難しく、1~2週間ほど話し合って最後に決まったのは「フロントに小さなポケットをつけよう」というアイデア。無難ですがこれがもっとも機能とデザインのバランスが取れると思っての決断です。
「サンプル作りもこれで終わって、やっと製品版が完成した!」
そんな思いでフロントポケットを付け加えるよう工場に修正指示をしました。あとは完成したものを待つばかり、そう思っていたのですが…?
漂うコレジャナイ感
それから約3週間(サンプルを1度作り直すのには、だいたい1ヶ月弱かかるのです…!)、完成した最終版となるはずのバックパックを2人でワクワクしながら取り出してみると…
…そこはかと漂うコレジャナイ感。
決して悪いわけではないんだけど、なんかカジュアルになりすぎてる感じ…?
ぼくらは今まで機能を作っていく過程でデザインが決まってくるというアプローチだったけど、今回のポケットはもっぱら“デザインを加えよう”としてしまったから、なんか違和感があるね…
「言葉でうまく表現できないけど、なんか違う」という気持ち悪い状況ですが、このままではリリースすることはできないというのは2人の中で意見が一致。より良い方向性を探るべく、他にどういうワンポイントがあれば良いかを考えます。
しかし度重なるサンプルの修正により工場さんからは「これ以上サンプル修正に付き合うのは厳しい」と言われてしまいます。サンプル製品を1つだけ作るといのはラインで生産を管理する工場にとっても大きな負担になっていました。
LEKTさんがdripのこだわりを懸命に工場側に伝えてくれた結果、「サンプルの修正は次が最後」というラストチャンスをもらいました。工場さんやLektさんには本当に頭が上がりません。。。
最後にもらったラストチャンス、どうサンプルを修正するか。ここで改めてdripの強みやdripがみんなから求められていることに立ち返ってみることにしました。
良い意味でぼくらはデザイナーじゃないから、やっぱり“デザインだけ”を作ろうとしても上手くいかないんじゃないかな
多くのバッグにはフロントに何かワンポイントがあるものだけど、それが当たり前ではないし、固定概念を捨てて自分たちらしいものが作れるならそれが一番いいかもね
泣いても笑ってもラスト1回の修正。これで満足できない結果なら、また別の工場を探すか開発を諦めるかしかない状況です。
悩んだ末に2人が出した結論は「ポケットを外してフロントはフラットなままで」。サイズだけ気持ち大きいなと感じたので、そこを1cmだけ小さく設定し最終サンプルをオーダー。
そして届いたバッグがこちら。見た目こそ第5次サンプルに戻った形ですが、紆余曲折あったからこそ今のこのデザインに自信と納得感を得ることができました。
こうしてようやく完成したdripのバックパック。気づけばバックパックMTGを開催してから1年以上が経過してしまいました…!参加していただいた方、大変お待たせしました!
次回、連載最終話は改めてdripが作ったバックパックの機能や魅力、こだわりについてご紹介しようと思います。こちらのバッグは2021年1月末からクラウドファンディングを開始予定です、もう少しだけお待ちくださいね!